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「ただいまー」
と言ったそばから、
「行ってきまーす」
と娘が通り過ぎてゆく。
「待てい。どこへ行く気だ、我が娘よ」
ジョンは後ろを見ずに片腕を伸ばし、娘の肩をつかむ。
「ちょっと伝説の黄金コインを求めてさすらいの旅に……」
「旅人よ、ハイヒールではさすらえん。あと服装の露出度高すぎ。パパは娘のナマ鎖骨なんて触りたくないんだな。ってえ?」
砕けるような鈍い音と共に、ジョン腕は逆回転する。
「マジでキモいからやめてくれる?」
そして娘はわざとらしく見せつけるように肩をはたき、扉を閉める。
「痛たた、ちょっと待って、一秒でいいから」
閉まりそうな扉に無理矢理駆け込んだ結果、負傷した側の手の指を五本まとめて挟んでしまったのだ。
「お前、自分のメダリオンは置いていくのか?」
「飛行スキル持ちの友達の機体に乗せてもらうからいい。あたしのはダサいから見せられないの」
「その友達の性染色体因子を言ってみろ。XX(女)か? XY(男)だろ! パパは認めません」
「絡み方がウザい。もう時間ないから行くね」
扉を強引に閉められ、家の中へ押し込められるジョン。
尻餅をついたと同時にポケットからコインがこぼれ出た。
一人残された家の中で、安っぽい金属音がこだまする。
「あ、それから」
再度開いた扉の向こうから娘の頭が飛び出した。
「ママもしばらく帰らないんだってー。伝説の黄金コインでも探しに行ってるんじゃない」
娘は鈍い笑顔で旅立って行った。
扉の隙間から漏れる細い光の筋が、ジョンの顔をむなしく照らす。
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