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「あいつ、絶対彼氏出来たな」
ブツブツとつぶやきつつ、四つん這いの体勢で落ちたコインを拾い集める。
さぞ滑稽な様子なのだろう、と自虐に浸りながら。
「あいつはママと同じで、イケメンを見るとすぐ惚れる体質だからなあ」
靴箱の下に潜り込んだコインを取ろうとして腕を突っ込んだ。
まだ腕の痛みがおさまらない。
「イテテ、こと馬鹿力娘が。今頃飛行スキルのメダリオンに乗ってドライブでもしてんのかなー。首都の空中灯台のてっぺんまで登っちゃって、チュッチュしてんだろうなー」
指先を奥のほうへ這わせようとするあまり、頭が靴箱に押しつけられる。
妻のハイヒールの先がチクチクと頬に当たった。
「ちくしょう、俺だって昔は……。あれ、昔より今のほうが撃破数上がってるじゃん。今じゃこの国のナンバーワンプレイヤーだぜ、俺」
靴に向かって愚痴をこぼす。
この靴は二度と履かれないかもしれない。
「けどそう言えば、俺はもうオッサンだったな」
中指と人差し指の間でコインを器用に挟み、深海のような靴箱の下からゆっくりと釣り上げた。
「この頃、家に帰ってなかったからなあ。仕事忙しかったし」
のそりと立ち上がり、自宅裏庭のメダリオン・ステーションへ向かう。
「メダ中で何が悪いんだよ、くそう」
メダリオンに四六時中乗っている、乗らないと気が休まらない、乗りすぎてイカレちゃった……。
どれか一つでも該当すれば、そいつは俗語で言う「メダ中」だ。
メダリオン中毒の略である。
「家族のために戦ってるんだぞ、コンニャロウめ」
思わず吐いた溜め息。
その熱気は自分自身をうだらせる。
額の汗がひとしずく、汚れたコインに滴り落ちた。
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