レベル壱

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  愚痴を言い合い、世間話に花を咲かせるジョンとヘンリー。 下らない意地の張り合いをしながらも、その様子は実に「和やか」で「穏やか」で「平和」だった。 だがそうであればあるほどに、ジョンの苦悩と罪悪感は増してゆく。 仕事をサボってゲームをしていたから、ではない。 むしろよく働いたからこその苦悩なのだ。 コインを投入して動く人型機械メダリオンに、ジョンは実際に乗っていた。 彼が入っていたカプセルは、機体の心臓部に固定されていたのだ。 ゲーム機のコントローラーで機体を操縦し、ジョンは敵機を撃破した。 もちろんその機体の中にも人が乗っていて、カプセル部分が潰れるとどうなるかは言うまでもない。 マシンとマシンの戦い。 それは架空の世界の出来事では決してない。 実際の戦争なのだ。 戦闘中はゲーム感覚でプレイしていても、その後に続くありふれた日常が、目を背けたはずの現実を思い出させる。 その日常が平和であればあるほどに。 機械生命体メダリオンが人間に深く関わるようになってからというもの、その後の人類の歴史は大きく変動した。 戦争にしても、従来型の「命と命のやり取り」というようなリアルで生々しかったものが、まるでゲームでもしているかのような感覚で現実感が伴われないままに行われている。 ジョンやヘンリーはゲーム機のコントローラーで人型機械メダリオンを操縦する「兵士」なのだ。 敵機のカプセルを破壊し、活動を停止させることを「撃破」といい、撃破数に応じてプレイヤーへの報酬のコインの枚数が定まる。 そしてコインは世界共通の経済通貨でもあり、ジョンは報酬のコインで仕事終わりのコーヒーを飲むことが出来るのだ。 それがメダリオンのナンバーワンプレイヤー、ジョン・ネイピアの実態だ。 「ほい、お会計お願い」 レジの前に立つジョン。 「ご来店ありがとうございました」 ふと考える。 人ひとりの命は、コーヒー何杯分になるのだろうか、と。
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