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赤い林檎は白い袋を切り裂き、外の世界に飛び出していく。
新たな夢と未来を求めて。
灰色の下り坂を跳ねまわり、転がり続ける我が身は
高揚する心を抑えきれない。
後ろから夜叉の如き面持ちで迫り来る少女の荒い鼻息と息遣いなど
この気持ちの前では兎のか細き声に同じ。
夜叉少女は長い黒髪を振り乱しながら、
制服の紺色のスカートからパンツが見えそうになるのも気にせずに
ドタバタと下品な音を立て、我らを追いたてる。
外に出たからには、もうこっちのものだ!
こんな女に調理されるくらいなら、旅に出た方がまし。
ーでも世の中はそんなに甘くないとすぐに思い知らされる。
雪化粧の如き着物を身に纏った深緑色の髪の者が、
細い両腕で我らの前に柵のように立ちはだかったのだ。
「駄目じゃないですか。
勝手に外に出ては。
美味しいアップルパイになるのに」
我らは一瞬だけ真っ青になる心地がした。
鶯色の穏やかな瞳と優しい声は我らの心を一瞬にして掴み、
我らは跳ねるのを止めた。
だが我ら林檎以上に驚いたのは、目の前にいた「夜叉少女」だった。
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