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彼女は白い肌を更に青白くし、
男とも女ともつかぬ不思議な色香を漂わせるその者を
大きな黒い瞳で見つめていた。
「何故知ってるの?それにここって・・・」
少女が見上げた視線の先には今にも崩壊しそうな木造の建物が建っていた。
埃だらけの看板は蜘蛛の巣の集合住宅と化していた。
深緑色の髪の者は会釈をし、にっこり笑う。
「ようこそ!月見堂へ!
貴方のような急なお客様のご要望にもお応え出来る商品を取り揃えております。
ここでは何でも揃いますが、御使用にはお気をつけ下さい。
貴方次第でこの世界も、貴方の未来も変わってしまいますから。
さあ、中へ」
錆びた鉄の扉は開かれた。
我らを抱えた深緑色の髪の者に導かれ、黒髪の少女はほの暗い店内に足を踏み入れる。
二人の姿が見えなくなると、扉がひとりでに閉まり、
辺りの木々で眠っていた鳥達が騒ぎだし、木々の間を強い風が吹き荒れる。
ー今ここから全てが始まる。
封印された過去は来たるべきに未来に向かうため、時を刻み始める。
少女の真の時も真の物語も今まさに記されていく。
開かれた扉の向こうから閉ざされた時が溢れだす。
青く澄み渡る空が仮初(かりそめ)に虹色に染まる。
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