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「あら、男前」
「今更だろ?」
裏からタブリエに着替えた月詩が出てきた。久々にみたその姿にマスターも自然と声が漏れる。
「もう開店か。俺、明日は任務が朝から入ってるからあんま働けねーよ?」
「大丈夫よ。別にそこまで虐めようなんて思ってないわ」
マスターはフフンと磨いたグラスを光に当てて、自信気に笑うが月詩は鼻で笑うだけ。
どうやら全く信頼されてはいないらしい。
「さぁ、どうだかね」
「あらひどい」
それにへこたれるようなマスターでもない。彼の胸ぐらを掴んで引き寄せ、息が掛かるほど顔が近づく。
ちょうどその時、バーのドアがわざとらしい程派手に鈴の音を鳴らして開いた。
「マスター!!」
「あら。いらっしゃい、政宗くん」
そう叫んだ頬を膨らませた青年がマスターを睨みながら小走りでバーカウンターに座る。ちょうど先ほどまで月詩が座っていた席だ。
「マスター!!月詩は俺のだって言ってんじゃん!」
「聞いたことないわ」
ダンとカウンターに手をつき、彼とキスをしようとしていたらしいマスターに怒る青年。マスターは残念ながら聞く耳を持たないすまし顔でしらけてみせる。
「おい。俺がいつからお前のものになったよ」
両者を見兼ねた月詩がそこに割って入った。見るからに不機嫌な様子で。
「でも月詩、決まった子作らないじゃない」
「そーだよー!別にいいじゃーん!!」
二人は子供が駄々をこねるように口先を揃えた。
それに少し眉をひそめて諫めた。
「もうすぐ出来る」
その低い声の後、しばらくの沈黙。
そして絶叫。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」
月詩は思わず耳を塞いだ。
「うっさ」
今日もまた愉快な夜が始まった。
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