開店

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「アタシはここのマスター。月詩にはバーテンとして働いてもらってるの」 それを聞いてきょとんとした顔を月詩に向ける。彼からしてみれば本業があるにも関わらずこんなところで働いているのが驚きなのだろう。 月詩はいつのまにか裏の厨房に入って行ってしまっていた。 「大丈夫よ。アタシだけはコイツの本業を知ってるから」 「そうですか」 「馬鹿みたいに荒れてたコイツを拾っただけなんだけどね」 「荒れてたんですか?」 「喧嘩ばかりしてた時期があったの」 「そんな話吹き込むな」 月詩は何かを持って戻ってきた。何それ?とマスターが聞く前にそれは星唄の前に置かれる。 「飲めば分かるさ」 「あ、ありがとうございます」 チラリと疑い深い視線を月詩に向けながらコップに口を付ける。彼が言ったようにそれが何かその瞬間分かったらしい。 「これ!!」 「あは。気に入った?」 「もう飲めないと思ってたのに!」 「それ作ってたの俺の母親だし。よく見てたから作り方くらい分かる」 彼の様子は小さい子供がはしゃぐようで。十分に大きい目を零れてしまうのではないかと思う程見開いて輝かせているのを月詩は嬉しそうに眺めた。 「何作ったの?」 「バナナとイチゴと牛乳でミキサーかけるだけのジュース。ガキの頃、コイツが来ると母親がよく作ってたの」 取り残されたマスターにそれの説明をしている間に星唄は全て飲み干し、空っぽになったガラスコップを見つめながらすごいとおいしいをひたすら連呼していた。 「すごい!!おいしー!!すごーい!!」 「星唄、ヒゲ出来てる」 「あっ……えへへ」 牛乳が口の周りについている子供らしい姿をケータイで撮ってから指摘すると、恥ずかしそうに服の袖で拭く星唄。 そこら辺の小学生のような様子に月詩は苦笑した。 「お前は本当に成長したのかよ」 「したに決まってるじゃないですか!!」 「してるといいネ」 面白そうにからかう月詩に頬を膨らませる星唄。その微笑ましい二人をすぐそばからマスターは黙って親が子供の成長を見守るように眺めていた。 そんな中、星唄が握り締めていたコップを月詩が急に奪う。 二人が不思議そうにその行動を見ていると彼は困ったように笑った。 「もう一杯容れてくるだけだよ」 喜ぶと思ったからたくさん作ったのだと呟く月詩の方が嬉しそうなのを見て、マスターはまた笑った。
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