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「ちはーっす」
月詩が二人にジュースを注いでカウンターに戻ってきた頃、また一人このバーを訪れた。
「フェイちゃん。とっくに開店時間過ぎてるわよ」
「あー、すいません。ちょっと表で捕まって」
銀髪、赤目の少年は何故かマスクをしていた。体調が悪いわけでもないだろうに。
「まー、よく喧嘩ふっかけられるものね」
「よ。久しぶり」
ため息をついたマスターを余所に月詩がカウンターから顔を出した。どうやらここも既に知り合いだったらしく、その少年は嬉しそうな顔をして寄ってきた。
「あー!!月詩さん!!と……そちらは?」
「柏木星唄です」
「俺のだから手出すなよ」
「いつから神崎さんのものになったんですか!!」
「昔からだろ?」
そうしてフェイを挟んで二人は口論を始めだした。が、ちらりと彼を横目にみた星唄が口をつぐみ、バッグを漁りだす。
「星唄?」
「フェイちゃん、ケガしてる」
「俺?」
「絆創膏貼ってあげる」
背の低い星唄は背伸びをして震えている。それを笑いつつフェイが膝を屈めると、頬に絆創膏を貼り、キスをした。と同時に青筋を立てた月詩はアイスピックで自分の頬を引っ掻く。さっきまで頬を染めていたフェイも同じ真っ青だ。マスターは額に手を当ててため息をつくばかり。
「星唄!俺もケガしたから絆創膏!!」
ガキか、と言いたくなる程だ。おかげでダラダラと彼の頬から血が流れている。
「か、神崎さん!!それ、絆創膏じゃ済まないです!」
「いいから!!絆創膏!!」
凄い剣幕で睨まれ(月詩にそのつもりはない)、目の前でダラダラと血を流され、星唄はどうすることもできず泣き出す。
それを見兼ねてマスターが月詩の手を引いた。
「こっちいらっしゃい!!絆創膏じゃ無理よ!キスならアタシがいくらでもしてあげるから!!」
「マスターじゃ意味ないだろ!!星唄がいいんだよ!やだ!星唄がいい!いやだぁ!!」
駄々を捏ねる月詩を容赦無く連行していくマスターがいなくなるのを見たフェイが小さく呟く。
「俺の中の月詩さんが音を立てて崩れていく」
「あんなもんですよ、あの人」
「嫌だァァァァァ!!カマは嫌ァァァァァァ!!」
宛てもなく遠方から聞こえる悲痛な月詩の叫び。
それを聞いたフェイは静かに涙を流した。
「……さようなら。かっこ良かった月詩さん」
幻想を見ていたフェイちゃんでした。
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