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「比和。ひとみちゃんのミルク、終わったわよ。」
母が、もう一人の赤子を抱いて入ってきた。
比和は、大人になって婿をとり結婚して、双子の姉妹を出産していた。
比和だけの乳では足りず、交互に粉ミルクを与えていた。
「ありがとう、お母さん。」
「あらあら、なおみちゃんはぐっすり眠っちゃったわねえ。」
比和の腕の中の赤子をのぞき込む母の肩越しに、雛飾りが見える。
いつか、二人の娘たちも雛を取り合って喧嘩をするのだろうか。
そして、まだこの家の奥の部屋には神様のための雛飾りが飾られているのだろうか。
旧家でありながら繁栄している比和の家を支えている神様が住む部屋。
ーーーいつか、私もその部屋を任される日が来るのかしらーーー
障子から漏れ入ってくる早春の日差しに照らされ、雛飾りは今年も美しかった。
終.
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