Ⅰ 貴方は血を流す猫に会います。

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 小さくなって紙を拾う少年から目をそらし、彼の妹を見る。白薔薇と羽がついた白いミニハットで飾られている、ブロンドに近い茶髪がよく目立つ。  レースをあしらった白のハイウエストジャンパースカートに、薔薇型のチュールレースがついたスタンド襟のブラウスを着た清楚な格好だ。  だが資料を持っている少女の手には毛糸で作られた黒いクマの頭部がついた大きめの手袋。親指だけが分かれている形で、動かすと頭がごろごろと揺れるため、どう見ても使いづらそうに思える。 「これで全部、ね」  振り向いた少女の顔の左半分は、ミニハットから降りている白いレースが幾重にも重なり、見えなくされている。その下に刻まれている傷を隠すためのものだ。  妹の名はメイメイ。  兄の名はメイゼル。  ある【目的】を共に志しているガブリエルの仲間であり、【Mei-bbi】を作り上げている兄妹だ。妹メイメイがデザインを考案し、メイゼルが試作品を作り、売り込んでいる。  元来自分の壊れた顔を覆い隠す物を作りたかったメイメイのデザインが高く評価され、世間に出回るようになった。ガブリエルが着ている限定品も、この兄妹から直接貰ったもの。  因みに雑誌の写真がメイメイ本人ではなくメイゼルという理由は簡単だ。メイメイという人物が【Mei-bbi】を作り上げていることは周知の事実だったのだが、雑誌の撮影が入った際、顔の半分を喪失しているメイメイが激しく拒絶したのだ。  故に仕方なくメイゼルが【Mei-bbi】の創設者として雑誌に掲載された。それだけのことだ。 「随分遅かったじゃない。遅れるなんて珍しいわ」  作業を中断せざるを得なくなったメイメイがついでとばかりにガブリエルに話し掛けた。声には疑問の感情が含まれているが、彼女の表情は固い。顔の左半分の神経を失っている為豊かな表情変化ができないのだ。  元々喜怒哀楽が薄い性格が禍し、メイメイの感情を読み取るのはかなり困難。純粋一直線のメイゼルは見ての通りで済むのだが、メイメイはやや捻くれた所があるので、面倒だ。 「ちょっと、厄介なのに見つかってね」  ガブリエルは答えながらランプを一つつけ自分に向ける。その【厄介なの】に貰った雑誌を読むためだ。 「呑気に読んでる場合かよ。他の奴らはもう動いたぜ」  ガブリエルにそんな事を言いながら、メイゼルは机の上に盛ってある菓子を啄む。流石としか言いようがない。
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