Ⅰ 貴方は血を流す猫に会います。

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 そう、広場で暴れているのは年端も行かない少女なのだ。遠くから見ていても華奢で小柄な体つきで、とてもではないがこんな混乱を巻き起こしている人物とは思えない。 「男の大人が何人立ち向かってんだよ……マジでダンピールなんじゃね?」  と聞こえている間にも、三人が少女の振り回している武器にぶつかって吹っ飛ばされた。 「は? なんでダンピールなの、あいつら最弱でしょ?」 「ばっか、それは政府がついてる嘘だって! あいつら、銀の杭でしか死なねぇんだぞ……!」  野次馬の話を聞きながら、ダンピールの正確な知識を知るものもいるのだな、とガブリエルは呑気に考えていた。  耳は野次馬の話に集中しているが、ワインレッドの左目が少女から目を逸らすことはない。  暴れている人物は傘一本を持っただけの小柄な少女。ブルーベリーを潰したような紫色のショートヘアを蝶のように舞わせる少女はまるでベリーパフェ。  頭で踊るラズベリー色のヘッドドレスを筆頭とし、ストロベリーのような黒ストライプの入った赤いブラウスと、ホイップクリームを散りばめたかのごとき幾つものフリルがついた紫のワンピース。アイスのように丸くなっているスカートから覗く足は黒、紫、赤のボーダータイツに包まれている。  その服についているブランド名は勿論【Mei-bbi】。メイメイがデザインした服の一つ。  そんな派手極まりない少女が振り回している傘もまた、異様を極めていた。  例のベリーパフェ色で出来ている傘布を支える骨全てから鋭く鋲のような針が突き出ていて、それを振り回す彼女はまるで針鼠。  そんな物で突き刺されては人間など一溜まりもなく、幾ら物理攻撃に強いヴァンパイアとて突っ込みたいとは思わない。  しかも空から雨の如く不規則に降り注ぐ弾丸があっては、誰もが怯え慌てふためくのは言わずもがなだ。  不幸中の幸いは、一番酷くて重症の怪我人程度で済んでいること程度。死者は出ていないが、このままではらちが明かない。  ガブリエルは暫く待ってみたが、傘を振り回すことに夢中の彼女は、全く気が付く気配がない。仕方がないので野次馬を掻き分けてベリーパフェ少女に近付くと、周囲がざわめく。  傘の攻撃が届かない位置で少女を見詰めてみるが、駄目だ。必死になって周囲を見ていないようだ。  この状況では声をかけても気付かないだろう。  とすれば残るのは実力行使のみ。
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