Ⅰ 貴方は血を流す猫に会います。

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「仕方ないか……」  ガブリエルは鋲に突き刺される覚悟で少女に向かって走る。案の定殺気を感じたのか傘を向けて突進してくる少女を飛び越えると、無防備な背中に着地した。 「あれっ!?」  そして標的にぶつからずよろけてしまった少女の背中側から傘の柄を掴み、自分の方へ引き寄せた。 「ここまでだよ、ダリベア」  ガブリエルに傘を掴まれたことで動きが鈍った少女は、自分の身に何が起こったのか分からなかったようで首を傾げながら振り向いた。  そして振り向いた少女はガブリエルの顔を見て、ぱあっと明るい笑みを浮かべる。先ほどまで凶器を振り回していた人物だとは思いがたいほどの変貌っぷりだ。 「ガブリエル君? 漸く来てくれたんだね! ダリベア、ずっと待ってたんだよ」  ニコニコと微笑みながらベリーパフェ少女ことダリベアが抱き付いてくる。体に傘の鋲が突き刺さるのではないかという恐怖を感じつつ、ガブリエルは抱きついてきたダリベアを受け止める。  周りの唖然とした表情が面白かったのはさておき。 「なんでこんなことを?」  勝手に動いた理由をダリベアに聞かなくてはならない。痺れを切らしたという可能性も確かにあるが、それならどちらかというとメイゼルとメイメイの方が短気だ。  人懐っこく思い遣りのあるダリベアが理由もなく暴れるとは思えない。いや、決してあの二人が思い遣りのない冷徹無慈悲と言いたいわけではない……のだが。 「ガブリエル君、集合したら出撃って言ってたから……」 「……皆揃ってからの話」  真面目すぎて話を変な方向に理解してしまっていたダリベアは、自分の失態に気付きしゅんと俯く。そんなダリベアを見ていると心が痛む。此方が悪いことをしたみたいだ。まぁ、遅れたガブリエルが悪いのだが。 「次からは気を付けるね!」 「うん」  ダリベアは性格が良いが、天然とお節介で暴走しやすい。今回がいい例だ。  しかもどれも悪気がないのだから怒りづらく、こうして警告する程度。性格が悪いくらいの方が諌めやすい。 「でもでもガブリエル君、これからどうしよっか? このままここにいたら皆襲ってきちゃうよ?」  ダリベアの言葉で漸く現状を思い出したガブリエルは、ここに留まるわけにはいかないと気付く。  既に数人が殺意を持って此方を睨み付けている。こんな状況で平静を保つダリベアが羨ましい。能天気に傘を折り畳んでいる。
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