Ⅰ 貴方は血を流す猫に会います。

2/33
前へ
/50ページ
次へ
 昼は人間が、夜はヴァンパイアが支配し共存する世界【パロウベク】。  二つの種族が議論を重ね、互いの知識を与え合い、互いの意思を尊重して生きている。  自らを【純血】と呼びし彼らが唯一【禁忌】として禁じている行為。  二種族が交わり、下劣で穢らわしい混血児【ダンピール】を産み堕とすこと……。       †††  【グアダルペ】は美しい町並みが並ぶ、【パロウベク】内で最も栄えている街。それもそのはず、グアダルペは王都なのだから。人間とヴァンパイアが互いに手を取り合い作り上げた象徴的な街だが、街の中では貧富の差がはっきり見てとれる。  地方にいるより貴族や資産家が集まるこの地の方がより施しを受けられると思っている浮浪者がいることと、反乱分子が集まってくることが理由だ。  そしてそんな浮浪者や物騒な組織が集まってもなお威厳を無くさないこの街は、まさに【王都】としての役割を保っている。  その証拠に、この街の最も高い場所には平行して二つの城が並んでいる。双子城と揶揄される城は二つとも全く同じ形状で、違うのは外壁と掲げられた旗。  白は人間の城。黒はヴァンパイアの城。  言葉では平等と連ねていようと、昔は争いあい、潰しあってきた仲。僅かでもどちらかが優勢になれば均衡が崩れることは疑いようがなく、故に城も瓜二つに造られているのだ。  とは言えそれは政権を握る王族同士の争いであり、ある一定の自由が保証されている国民にとっては、「また下らないことを競いあっているよ」程度の認識だ。国民からすれば、それをきっかけに度々起こる反乱などの危険な行動を諫めて欲しいと願うばかり。  武器の所有・販売が認められているパロウベクでは、内乱が兎に角多い。それこそたまに死者が出るレベルだ。  だが並ぶ白亜の建物はそんな内乱など微塵も感じさせない威厳を放っている。築二百年以上の歴史を感じさせ、風化による汚れが目立つ。しかしその汚れすら自らのものとして風情ある佇まいを魅せるこの建物達は、立派としか言い様がない。  星明かりも消え、ワインが沸き上がって来るような太陽が顔を見せるこの時刻は、全体的に白を基調としている街の建物が赤く染まって美しい。  人間の過ごす時刻を祝福する太陽のセレモニーが始まるこの刻限、一人の人影が街中を歩いていた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加