Ⅰ 貴方は血を流す猫に会います。

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 故にガブリエルも深く追求することは止めておく。貴族を怒らせるのは質が悪い。何故かと言うと、いくら自由社会とは言え金が物を言う世の中だからだ。夜警国家しか果たさないこの国は、暗殺など常のこと。敵は少ないに越したことはない。  こんなク……いや、生意気な少年でもその気になればガブリエルをお咎めなく殺せるのだ。  だがそういう話はまず、少年が自分の家族と無事会えてから、のことだが。元いた場所から連れてきてしまった以上、最後まで送り届けようとは思っている。後々置き去りにしたことがバレて襲われたら怖い。 「あのさ……」 「なぁ、知っているかい? 最近、ダンピールどもがこの街に集まってるって。しかもそいつを束ねてんのが人間らしいよ」  せめて家の地区くらいは聞かなければらちが明かないだろうと思い、問おうとした瞬間、ガブリエルの耳にそんな言葉が飛び込んだ。  声の聞こえた方向を向くと、やや太り気味の女性が二人、野菜屋の横で立ち話をしていた。大きな駕籠鞄に紙製のナプキンを置いただけの簡素なものを下げながら、エプロン姿と言うなんとも気が抜けた格好で話をしている。 「人間!? あらま、そりゃ不気味だこと。今日処刑されるやつを助けようとでもしてるのかね? 街の空気が汚染されるから、早く消して欲しいものだ」  ダンピール。  王都であろうが田舎であろうが意味嫌われる劣等種……と呼ばれている生物のことだ。  地方から集められたダンピール達が今日、この王都で王族の手により処刑されることが決定している。  話に聞き入って後ろを見ながら歩いていると、少年に服の袖を強く引っ張られた。主婦から目を離して少年の方を向く。 「ガブリエル、だんぴーるとはなんだ? ビールの種類か?」  貴族の子なのに知らないのか、と思ったが、むしろ逆なのだろう。不浄なダンピールの存在を無垢な子供に教えること自体が穢らわしい。 「人間とヴァンパイアの混血児のこと。不浄で穢い悪の存在。生まれることを赦されていない【禁忌】の子」  そしてこの世界で、弱点を一つしか持たない最強の存在。  要らぬ知識を吐き出そうとした喉を懲らしめるように、ガブリエルは喉を叩いて咳払いする。 「ガブリエルはどちらなのだ? 人間か、ヴァンパイアか?」
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