Ⅰ 貴方は血を流す猫に会います。

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「二つの種族に共通する殺し方は? 物理攻撃な上に聖なる物。一番エグい」  エグいと言う言葉を理解できなかったようで、少年はポカンと口を開けた。餌を待つ鯉のようだ。気にしないでとガブリエルが呟くと、ようやく少年は思考を切り換えて考え始める。  が、いくら待っても答えは出てこなさそうだ。 「銀の杭だよ」  痺れを切らしたガブリエルが答えると、少年が謎が解けた晴れやかな顔をした後、頬を膨らます。 「俺様もここまで出てきてたのに! お前は猫に降格だ!」  自分の喉元を強く押しながら少年が騒ぐ。喉に悪いよ。  ってか、猫って……。  【Mei-bbi】のパーカーについた猫耳のことだろうか。 「外見で全て判断するタイプだなコイツ……」 「何か言ったか?」 「いや別に」  思わず漏れた本音が聞かれなくてよかった。媚を売るつもりはないが、挑発することに意味はない。  世間知らずなお坊っちゃまのお相手は想像外に大変だなぁと思いながら手を引いて歩いていると、前方から二人、黒いスーツに身を包んだ男の姿が目に入った。  朝日を遮るように現れた二人の顔色は青白い。一晩中駆けずり回った挙げ句日の出を迎えてしまい、陰鬱としていると言った様子。  恐らく……いや、間違いなくこの少年の知り合いだ。その証拠に、再び愚図りかけていた少年が目を輝かせて二人の姿を見つめている。どうやらガブリエルの仕事は終わったようだ。 「じゃあね」  ガブリエルは隙をついて手を離すと、踵を返した。少年があっと声をあげ、駆け寄ってくる。 「助かった。礼を言う」  聞くべきことはもう終わった。少年を導けたこの手が、絶望ではなく希望に向かったことが、少しだけ嬉しかった。 「最後に一つ、ガブリエルに聞きたいことがある」  迷わず立ち去ろうとしていたガブリエルは少年の言葉で足を止めた。こちらを見上げてくる真っ直ぐな深紅の瞳。涙を流していた後には思えない、真剣な表情だ。 「お前はダンピールを悪と呼んだな。では悪とはなんなのだ?」 「……それは人によって違うと思うよ。一様には言えない」  そうか、と少年は呟き、俯く。意味を理解したのかは分からないが、彼は何かを感じ取ったようだ。 「ではガブリエル、お前の悪とはなんだ」
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