Ⅰ 貴方は血を流す猫に会います。

9/33
前へ
/50ページ
次へ
 その内の一人、男の方がつけているヘッドフォンから、大音量の音楽が流れてきているせいで、部屋の中が煩くなっている。  扉の立て付けの悪い為、ガブリエルは無理矢理嵌め込むつもりで勢いをつけて大音量で扉を閉めるが、音楽のせいで全く気がつかれない。仕方がないのでその人物の背後に回ると、ヘッドフォンを取り上げる。取り上げたところで部屋中に音楽が鳴り響いているのは変わらないのだが。 「うわっ? って、ガブ!」  ヘッドフォンから流れる音楽を聞いていた男はソファーの背凭れに手をかけて上半身を起こし、此方を見てきた。  癖なのかぴょんぴょん跳ねている茶髪と、洒落た黒いハット。薔薇と懐中時計がついているが勿論動かない。  トランプ型ピンからのびたチェーンをつけている黒いベストと、赤いネクタイを緩く締めた茶色のシャツが似合っている。小顔でスタイルもよく、ホストでもやらせたら客が殺到しそうだ。  その顔は先程まで見ていた雑誌に載っていた、ブランド【Mei-bbi】の製作者、メイメイの顔。 「お前いつまで待たせるんだよ!! お陰で十五回もリピートして聞いちゃっただろ?」  男はヘッドフォンを取り戻そうとソファーの上で跳び跳ねるが、ガブリエルが後ろに下がると全く手が届かないようで諦めて手を下ろした。 「メイゼルに十五回も同じ曲を聞かされるメイメイが可哀想だね」  言いながらガブリエルは背凭れに手をかけて飛び越えると、そのままソファーに座る。柔らかなソファーが弾み、男も跳ねてそのままソファーから落ちかけた。 「あぶなっ!? 何すんだよ!!」 「うるさいよ、メイゼル」  掴みかかってきた男にガブリエルが答えると、男は怒りのやり場を上手く逸らされた怒りで机を叩く。机の上に大量に積み上げられていた資料が振動によって落ちていった。 「…………お兄様?」  バラバラと崩れる紙を見つめていた三人だったが、やがて今まで無反応だった少女が咎める声を出す。  その矛先はガブリエルではなく、先ほどまで会話をしていた男の方。会話から想像出来るように、この二人は兄妹だ。 「……ゴメン」  大量の資料が落ちていく悲惨な様を見送った後、妹に咎められた少年は小さく呟いて紙を拾う作業に取りかかる。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加