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卒業という一つの節目を強く感じたのは花飾りのアーチを潜った時でも貰った筒をぽんぽん言わせて遊んだ時でもなくて、一人の女子生徒の背中が小さくなっていくのを見た時だった。これで終わると自覚が追いついてきて落ち込む。
「あ~、結局なんにもできなかったなあ――うわぁっ?」
突然肩を掴まれ無理やり物陰に引きずり込まれた。
「その後悔は早過ぎるだろうが! お前これ持ってすぐ江田さんを追いかけろ」
連れ込んだ誰かに本を手渡された。顔を見ると、俺によく似ている。疲れた時の俺の顔に。
「江田さんに追いつけなくなるから、一回で理解しろ。
俺はタイムマシンで数年後の未来から来たお前だ。お前はこのあと江田さんに告白できなかったことでずっとウジウジ悩んでパッとしない人生を歩む。俺はそういう未来から来た。
だからお前はここで変えろ。この本を渡して『借りてた本を返す』とか何とか言って、あとは自分で考えて連れ出せ。そら早く、ちゃんとコンティニューしてこい!」
尻を叩かれ物陰から追い出された。
江田さんというのはさっきも俺がじっと見ていた女子で、他でもないこの卒業での心残りだ。片想いをしているだけで、面識はほぼ無い。
誰にも秘密な恋心を把握されていて恥ずかしいという気持ちが湧いてこなかったのは目の前の男が言う「自称俺」ということをいくらか信じたからかもしれない。
ともかく俺は受け取った本を手に江田さんのあとを追いかけた。
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