奇跡は突然やって来る。

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「奴ら二階からわんさか逃げ出してやがるぜ!!」 左之って人が敵らしい男を突き殺してから、顎を上に向ける。 「土方さん達おせぇな!このままだと、大物逃がしちまうんじゃねぇか!?」 「上も静か過ぎるな!外に出た奴ら追ってったのかも知んねぇけど、よっと!!」 命懸けの戦いで悠長に喋りながら刀を振り回すって…。 二人の後ろであたしはとにかく、邪魔にならないように避けたり小走りしたり死に物狂いだ。 「あっつーーい!」 異常なまでの室温の高さに、薄手のパーカーはベタベタ張り付くし、デニムやブーツもぐっしょりで気持ち悪い。 でもそれ以上に体中についた他人の血が、自分の理性や常識を遠いものにしていくみたいで、どうしようもなく嫌だった。 「総司っ!!総司ぃっ!!」 突然どこからか凄い大声が家を揺らし、あたしの前の二人がガバッと階段へ振り返った。 「上がるぞ!来いっ!!」 「ケツは任せろ!!」 言われるがまま急な角度の階段を上がりながら、何でこんな事に巻き込まれているのか、ちょっとだけ考える時間が出来た。 あたしは事故に遭ったハズなんだ。 なのに、目が覚めたら知らない部屋で、羽織り袴の人達が殺しあってる。 蓮司はどこ? あたしが変なの? これは夢? 死後の世界? あーもう!何にもわからないよっ!! 階段を登りきるとどの部屋からか、また金属音が聞こえる。 そして必死に同じ名前を呼んでる声。 廊下の横の窓は全部無くて、外へ繋がる大きな穴でしかない。 一階の屋根の下でも叫んでたり喚いたり金属音がしたり…この家中が端々に至るまで、戦いに染まっている事だけは理解出来た。
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