色魔退散!

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この意地の悪い笑い方… 何で忘れてたんだろう。 この人は、あの時あの場所で…唯一ハッキリと覚えてる新選組の敵だった人で… 「えーっと、えーっと、」 …ヤバい。 ジリジリと後退りながら逃げ道を考えていると、男はプッと吹き出した。 「助けてー、とか言っちゃう?言えないよねぇ。仮にも新選組の幹部だし。ね、藤堂平助君?」 「なっ、」 確かに、叫べば山崎さんや隊士の誰かが来てくれるかも知れない。 でもそれは『平助』のあたしがやっちゃダメなんだ。 きっとこの人は何もかもお見通しで、敢えて声をかけて来たんだろう。 「ククッ、何?その怯えた顔。…大丈夫だよ、取って食いやしないから。」 「怯えてないし!」 睨みつけると一瞬困った顔をして、人差し指を自分の唇に立てて見せた。 「騒がないでよ。僕がお尋ね者なの知ってるでしょ?今君の仲間が来たら、『何を呑気に話してるんだ』って、君の立場もマズくなるんだよ?」 その通りだった。 かと言ってあたしが今刀を抜いた所で、この人に敵うはずがない事は池田屋の立ち回りを見て充分承知している。 「ぐっ、そう…だけどさ。……あんた、俺をどうしたいの?」 自分がお尋ね者だとわかってるのに危険を犯してまで、何であたしに声をかけたのかがわからない。 、
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