天衣無縫(テンイムホウ)

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だったら早く止めてくれよ! って言うのは、逃げた手前口には出せないけどさ。 様子を窺って、ヤバいと判断したから助けてくれたんだろうし。 「嗾(ケシカ)けたのはあなた方ですが、先に抜いたのはこちらです。この場は私に免じて双方引いては貰えませんか?」 ニコニコと口は笑ってるけど眼には怒気を含んでて、『言う事聞かないと殺すよ?』オーラがビシバシ出ていた。 「わ、わかった。」 「…承知した。」 揉み上げと細目は生唾を飲んで平静を装い、池田屋の出入口に戻って行く。 それはまるで躾の行き届いたワンコと言うより、死刑執行を逃れ無期懲役になった罪人みたいだ。 「さてと…」 やんわりと脅し圧勝したどす黒いオーラを放ち、今度はあたしを見てニッコリと笑う。 「帰りましょうか。」 「え、あ、でも、あたしここに用事が」 「帰りますよね?」 『反論は許さない』と眼が怒っている。 普段は優しいのにキレたら手がつけられなくなるのは、今朝の山崎さんとの一件で目の当たりにしたばかりだ。 怒りを買ったのはシカトしたからか、単独行動をして揉め事を起こしたからか… どちらにせよ今の総司さんに逆らっても分が悪過ぎる。 「……ハイ…」 渋々頷き後に続いて歩き出す。 沈黙の間、総司さんの広い背中を見失わないように、ひたすら早足でついて行った。 、
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