天衣無縫(テンイムホウ)

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ポニーテールにした長い漆黒の髪が、体の振動に合わせて一定のリズムを刻む。 タイムスリップの謎を調べられず命懸けの喧嘩を買い、目の前の総司さんは無言で怒ってる。 こんな無謀な行動をとるきっかけになったのは、山崎さんにムカついたからだし! …と、恨みがましく理不尽にも思う。 それが責任転嫁だとはわかってても…何もかも誰も彼も気に食わないし、ここでの生活が窮屈に感じるばかりで、逃げ場が欲しかった。 ……帰りたいよ…… 今頃、緊張の糸が緩み視界がぼやける。 鼻の奥がちょっぴりツンときて痛くなった時、 突然ピタッと総司さんの足が止まった。 「…?」 近付かないように距離を保ったまま、あたしも止まる。 どうしたのか様子を窺っていると、やっとこっちを振り向いた顔は酷く頼りない微笑みを浮かべていた。 「…そんなに、帰りたいですか?」 その一言だけで、総司さんには行動の全てが読まれていると知った。 「…うん。」 「どうして?…平助のフリがそんなに嫌ですか?」 「…嫌だよ、不便だし。それに…」 「それに?」 世話になってる身の上で、『あんた達みたいなエロと一緒に暮らしてるのが嫌だ』って、ハッキリ言っちゃっていいもんなの? 、
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