天衣無縫(テンイムホウ)

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総司さんは少し黙り込むと、急に握った手を動かして外側から指を絡めて来た。 その時に気付いてしまった。 あたしより汗ばんでいる大きな手の平に。 「…ええ、皆さん平助が大好きでしたよ…大好きな『友』でした。だからこそ欲情はしなかったんです。平助自身もやんちゃで強かったですし、無理に『あちら側』へ行こうなんて大それた事、誰も考えてなかったでしょうね。」 気を使って言葉を濁してくれたけど、ハッキリ『同性愛者』とか『両刀使い』って言ってくれた方がいい気がする。 でも何だか、もっと訳が解らなくなった。 昼間出会ったあの男は敵だし、多分…本物の平助を知らない。 なのに、あたしにキスをした。 あれはきっと…山崎さんの戒めのキスとは、また別の意味があるもの。 『またね。』 あたしの正体を知っておきながら、約束めいた言葉を残して消えて行った。 あの男の思惑は解らないけど、何だか凄くくすぐったい感じがする。 「…でも、あなたは平助じゃない…正真正銘の女子です。好きになっても口づけをしても…何の不都合もない。…私だって…」 「…え?」 、
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