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語尾は小さくて聴き取れなかったけれど、あたしの妄想でなければ好意があるようにしか思えなかった。
だってね?
握られていた手に力が篭もって、その熱が伝わって来たから。
「うわっ!?」
しかも、振り向いた沖田さんがいきなりあたしの手を引いて、細道へ連れ込み頭を優しく抱き締めた。
ふわり、と香る男の匂い。
瞬間、爆発しそうな位に顔が火照る。
「え、と‥‥あ、あのっ」
「シッ、‥‥黙ってて下さいね?」
み、耳に息がっ!
月明かりも届かない暗闇の中で、密着したまま指一本動かせない。
『やめて!』
とも、
『こんな事しないで!』
とも言えなかったのは、すぐに聴こえた叫び声のせいだ。
そして、
「雅っ!雅ぃーーっ!!」
「帰ってこーーーいっ!!」
恥も外聞も無く走りながら必死に名を呼び、風のように前の道を通り過ぎてゆく左之さんと新八さんの姿が。
それがどういう事なのか考えるまでもなかった。
きっとあたしがいなくなったのを知って、捜しに来てくれたんだ。
1番最初に助けてくれて、『守ってやる』と言ってくれた‥‥平助の親友達が、平助ではなく『雅』って、あたしの名前を呼んでくれている。
ただそれだけの事なのに、嬉しくて‥‥でも申し訳なくて。
あたし自身を必要としてくれる人は此処にもいない。
だけど、気にかけてくれる誰かが居たという事実が、萎んでいく心を励ましてくれていた。
「さ、」
「‥‥行かせませんよ。」
、
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