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「‥‥大丈夫‥‥じゃ、ない‥‥」
自分の涙声がまた涙腺を緩くする。
「だよな。‥‥慌てちまって、手加減する余裕なかったって言ってたぜ。」
ちょんちょん、と。
左之さんの袖は何度も何度も、伝う涙の分だけ優しく吸い取ってくれた。
「‥‥総司、さん?」
「ああ、お前が地声で泣くもんだから、門番に聞かれやしねえかって冷や冷やモンだったんだと。」
『泣かないで下さい』
焦った風に早口で言われた記憶が蘇る。
「‥‥言ったろ?お前が『平助』じゃないってバレんのも『女』だってバレんのも、どっちもマズイんだってよ。」
ーーそうか、そうだよね。
あたし達は一蓮托生なんだ。
正体を知る一部の幹部以外にバレたら、あたしが殺されて済む問題じゃないんだった。
「‥‥ごめん、なさい‥‥」
誰だって我が身が可愛い。
勝手にトチ狂って泣き喚いていたあたしは、お荷物以前の問題だ。
いつ帰れるかもわからないのに、二日目にしてこれじゃ‥‥此処でやっていけるハズがない。
「‥‥左之さん‥‥」
「ん?何だ?」
「あたし‥‥此処から、出たい‥‥な‥‥」
『いつか』
そんな日が来るのかも解らない。
だけどやっぱり、男として此処にいるより、貧乏でも野垂れ死んでも違う道を選んだ方がいいように思う。
せめて‥‥あたしはあたしのまま‥‥『雅』として生きて、死にたい。
「‥‥ダメだ。とは言えねえな‥‥そこまで思い詰めてんだったらよ‥‥」
また複雑そうな困り顔を見せる。
「お前がどうしてもってんなら女の姿に戻って、どっか住み込みで働ける場所を紹介してやってもいい。‥‥ただな、」
一旦切られた言葉の合間に溜息が零れた。
「勘違いしてっかも知んねえけど‥‥総司はな、己の命惜しさにお前の口を封じた訳じゃねえんだよ。」
今更何を‥‥と、少しムカつく。
「そんな顔すんな、嘘じゃねえよ。‥‥俺がもし同じ立場だったら恨まれんのを承知で、総司と同じ事したと思うぜ?」
「‥‥何で?」
諭すように丁寧に話されても、あたしには理解出来ない。
「何でって‥‥そりゃ、お前‥‥」
「『雅』が大事だからだろーが。」
「ひゃ‥‥っ!?」
突然会話に割り込んだ声は新八さんで、繋がれた左手がより強く握られ、大きな身体はのそりと起き上がった。
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