天衣無縫(テンイムホウ)

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「おまっ、ぱっつぁん!‥‥一番いいトコだけ持ってくんじゃねえよ!」 「あ?お前こそ抜けがけしてんじゃねえ。見逃してやる程、俺も甘かねえんだよ。」 布団を挟んで睨み合う二人は、同時にあたしを引き起こす。 「うわっ!」 な、何事!? 「お前が大事なんだ。」 「お前が大切なんだよ。」 クサイ台詞を左右の耳に囁かれ、両側から抱きしめられていた。 「ちょ、苦し」 あの‥‥筋肉でプレスされてるんですけど? でも暴れて振りほどく雰囲気じゃない。 気のせいではなくて頭の上で、犬の唸り声みたいなのが聞こえた。 「えっと、あの、あの、喧嘩‥‥‥しないで‥‥?」 そんなにも『平助』としてのあたしが大事なのが、ちょっと‥‥ううん、かなり悔しい。 あたしは『雅』。 さっきの左之さんの話しからすると、それはちゃんと認めてくれてるみたいだけど。 だけどやっぱり『平助』あってのあたしって存在だ。 もし『平助』が消えてなかったら? もしあたしが『平助』に似てない、違う顔した女だったら? こんな風に大切には扱ってくれなかったでしょう? どんどん醜く歪んでいくだけの思考。 ああ、ヤダな‥‥苦しいけど、二人の体温が凄く気持ちいいのにさ‥‥あたし、変なんだよ。 腹が立つのに嬉しいの。 辛いのに切ないの。 どんなに優しくされたって本当の仲間じゃないから、疎外感ばっかり大きくなっちゃう。 此処にいるのが怖いのに、離れるのも寂しく感じる矛盾。 本当ヤダ‥‥これじゃただの自分本位な我儘じゃんか。 、
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