天衣無縫(テンイムホウ)

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確かに昨日の夜も総司さんの膝に乗った。 感触……と言うか座り心地をね、何と無く覚えてるんだ。 「あ、あの、自分で出来るから」 首を捻って見上げれば、そこにある笑みが限りなく優しくて…… 包み込むような大きな身体と、髪に触れる滑らかな動きを懐かしいと感じた。 だからかな…目の錯覚でダブって見えてしまったの。 幼い頃の記憶に眠る、大好きだった人の姿と。 『……お母、さん……』 言葉は飲み込んだ。 なのに… 不意に零れ落ちる涙。 ビクッと手の動きが止まって、総司さんの顔が強張った。 「……すみません、嫌、でしたよね……」 それはすぐに苦笑いに変わって、ゆっくりと膝から降ろされた。 「ち、違う…っ」 傷付けるつもりだったんじゃない。 自分でも良くわからないでいる。 この涙の訳を。 だってあたしはお母さんを恨んでて、楽しかった思い出も全部憎しみに変わったハズだったんだよ。 だけど、どうして…… 「ま、待って!」 立ち上がり離れようとする総司さんの背中に縋り付く。 「違うの!違う!あたしが……ううん、あたしにもわかんないんだよ!ごめんっ、絶対総司さんのせいじゃない!違うんだよっ!」 支離滅裂に叫びながら、逞しく広い背中に額を擦り付けていた。 回した自分の手を強く握って、思いがけず傷付けてしまったこの人を逃がさないように。 でも総司さんは黙ったまま動かなくて…… また別の涙が溢れて来そうになった時、後ろから別の手があたしの頭を撫でていた。 「違うって言ってんだろ。片意地張んなよ、総司。…余計泣いちまうぞ。」 、
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