天衣無縫(テンイムホウ)

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本当に嫌そうな不服顔で総司さんの腕の力が少し緩む。 解放されると思ったその時、タイミング悪く数人の足音が部屋に近付き、開けっ放しの障子の向こうでピタリと止まった。 あたし達三人の視線の先には…お膳を持った井上さんと、湯呑みが乗ったお盆を持つ左之さんと酒瓶を持った新八さんがいて、目ん玉ひん剥いた状態で固まっている。 「ああ源さん、丁度良かった。今取りに行くところだったんですよ。その辺りに置いてもらっていいですか?」 「え?…あ、ああ、そうだね。」 この状況で総司さんが平然と言ってのければ、土方さんからは舌打ちが漏れた。 「じゃあ、ここに置いておくよ。」 「はい、有難うございます。」 穏やかでない空気を読み取った井上さんは、そそくさと夕餉を置いて足早に消えてしまった。 「…おめえがとっとと行かねえから、源さんが気ぃ回したんだぞ。」 そしてすぐに棘のある言い方をして、土方さんがあたしを自分に引き寄せる。 「別に誰が運んでもいいじゃないですか。好意は素直に受けるものですよ。」 負けじと総司さんも、奪うようにあたしを引き寄せた。 な、なんでまた同じ事繰り返してんの!?あたしのご飯は!? お膳には白い布巾みたいなのが被せてあったけど、その下からお味噌汁の匂いがして鼻を擽り、途端に口の中は涎の大洪水だしお腹もグルグル鳴り出した。 だけど、そんな事などお構いなしに、 「ちょっと待て!」 「お前ら、何で抱きついてんだ!」 左之さんと新八さんも手に持つ物を机に置いて、怒りながら詰め寄って来た。 ギャーーーーーッ!? 声にならない叫びを上げて、あたしの身体は凍り付く。 こ、今度は四人に増えたあぁぁーーーー!? 、
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