2279人が本棚に入れています
本棚に追加
/412ページ
土方さん愛用の煎餅座布団に座らせられ、夕餉の上に被せてあった薄い布を取ってくれたそこには。
「うわぁ…ちらし寿司だ…」
ビックリ、した。
こんなむっさいところでお目に掛かるとは思わなかったし、やっと食べられるご飯にしては豪華だと思った。
そりゃあ、あたしが食べていた未来のモノとは違い、食材は質素だけど…
「どうだ?嬉しいか?」
「源さんお手製のちらし寿司だぜ。」
「美味しそうですねぇ。」
「お、玉子じゃねぇか。えらく奮発したな。」
皆も遠巻きに覗き、誰かがゴクリと唾を飲んだ。
「これって…まさかわざわざ作ってくれたの?」
「おう、お前が運び込まれてすぐに滋養のつくモン作ってやるって、飛び出してったが…成る程、こういう事か。」
土方さんの手が太めに切られた、金糸卵の上に伸びる。
「あっ、何手ぇ出してんだ!」
その手は払われ、
「さ、食いねえ食いねえ。遠慮すんなよ。残しちまったら源さんがしょげちまうぜ?」
新八さんが箸を渡す。
「…うん、頂きます。」
単純なあたしはそれだけで胸がいっぱいになる。
出会って間も無い人があたしの為に、特別に作ってくれた料理は何て…暖かく感じるものなんだろう。
一口食べて、心に染みた。
「旨いだろ?」
「うん、凄く美味しいよ。」
失礼だけど実際味自体は、未来のものと比べて薄味でちりめんじゃこや柴漬けが入ってたり、かなりお粗末なのかも知れない。
だけど、今まで食べたご飯の中で一番美味しいと素直に思えた。
「良かったなぁ。源さんも高え玉子を手に入れた甲斐があったってもんだ。」
「おいおい、もちっとゆっくり食えよ。誰も取りゃしねえんだから…」
夢中で止まらない箸は腹ペコだったからだけではなく、込み上げて溢れそうになる水を零さない為でもあった。
片意地を張って捻くれて、現実を受け入れたくなくて…迷惑ばかりかけている弱いあたし。
なのにこんなあたしを『平助』じゃなくても心配してくれて、きっと『平助』と同じかそれ以上に気にかけて扱ってくれている。
本当は感謝しなくちゃいけないんだ。
あたし達の身の上に起こった摩訶不思議な現象は、色んな人を巻き込んで混乱させているはずなのに、本人以上に受け入れて支えようとしてくれてるって事に。
『平助』も飛ばされた先があたしの住んでいた未来なら蓮司達に出会い、きっと同じ事を感じているに違いない。
、
最初のコメントを投稿しよう!