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後一押し欲しいとこだけど…ちょっと早まったかと、すぐに後悔する事となった。
ここは人が多い。
なのにあたしは大胆にも人目に触れる廊下で、泣き真似して総司さんに抱きついているのだ。
当然、
「あ……」
いつかは人目に触れる。
そしてタイミング悪くこの光景を目撃してしまった若いお兄さんは、ヤバいものを見たという表情を浮かべて、
「お、お疲れ様です。」
と頭を下げて、すれ違った途端に脱兎の如く逃げて行った。
「……何か…ゴメン…」
「い、いえ…こちらこそ…」
身体を離して謝ったものの、あの人が口の軽い人なら、明日にはあたし達の修羅場やホモ説が伝わってしまう事になる。
どうしよう……後で探してシメとくか?
しっかり覚えた顔を再びインプットし直し、いつまで経ってもこちらを向かない総司さんの袖を引いて、
「…ねぇ、どうしたら機嫌直、いっ、たぁー…」
後ろから顔を覗き込もうとして斜めに首を捻ったら、忘れていた痛みが急に襲ってきた。
「だ、大丈夫ですか!?」
患部を押さえてしゃがむところで、総司さんの腕に支えられる。
「うー、ズキっときた…」
涙目でゆっくり見上げたその顔は、トマトみたいに真っ赤っか。
ついマジマジと眺めていたら、
「…すみません、さっきの今でそんな目見ちゃったら…」
なんて言いながら片手で口を覆い、目線を逸らす。
いや……そこはさ、嘘でも『すみません、無理をさせて』って罪の意識を持ってくんないかな…
どこをどう取り考えたら照れるに至るのか、あたしにはサッパリわからない。
その上、
「…今みたいな顔、他の誰かに見せたらダメですよ?」
「え、わわっ!?」
突然抱き上げ、お姫様抱っこで歩き出した。
ーーマイペース過ぎだろっ!
喜怒哀楽の激しさに今日一日振り回され、疲れきってもう逆らう気力すらない。
……好きにしてくれ……
進むにつれ何人とも擦れ違ったけどさっきとは違い、お姫様抱っこはやっぱり見慣れているらしく皆普通にスルーするし、総司さん本人も全く気にしていない状態。
黙っていればイケメンなのに……顔と剣の腕以外が残念な人なんだなぁと、無駄な抵抗は諦める事にした。
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