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左之さんは勿論渋い顔で、残る皆は『アンタ何やってんだ』的な不信な視線を送る。
「な、中の掃除は終わったのかなあーって、気になっちゃって。」
背中に風呂敷包みを隠し回り込むように逃げると、隊士の中に落ち武者みたいに髪が解けて腕を後ろに回され縄で縛られた男がいた。
「その人…何をしたの?…池田屋の残党?」
「いや、こいつはただのかっぱらいだ。役人に引き渡すまでここにぶち込んどく。」
ゲロ、こんな吐きそうなとこに?
犯罪者とはいえ、それは同情してしまう。
「お前の方はどうだったんだ?斉藤が付いてったんだろ?」
隊士達に捕縛した男を任せ、左之さんは頭をグリグリと撫でた。
「うん、うちは成果無しだったよ。」
平穏無事に一日が終わって、本当は安心してちゃいけないんだろうけど。
「そうか、良かったな。」
左之さんもそう言ってくれたから、あたしを心配してくれてたんだと思う。
「まあ、残党狩りは俺らに任せときゃいいんだよ。昨日は池田屋惣兵衛に大秋って奴ひっ捕らえたって話しだからな。残りもその内一掃されっだろうし。」
「うん、皆強いからきっとあっという間だろうね。頼りにしてるよ左之さん。」
「おう、お前は無茶すんなよ。」
「あはは、あた…俺の場合したくても出来ないから大丈夫。」
此処に来て日も浅いし地理に疎いあたしはちょっと気を抜いたら迷子になるし、生きてるだけでやっとだもん。
その時何故だか急にこのタイミングで、ふと頭を過った男がいた。
昨日あたしが迷子の時にフラッと現れ、楽し気に会話をして唇を奪って消えた綺麗な顔したイケメン君。
あの人も池田屋から逃げた残党の一人だ。
こっちに飛ばされてパニクってたあたしでも解った。
あの人は別格に強いって。
池田屋で強者に囲まれて明らかに形勢が不利な状況でも、嘲笑いながら軽くあしらい余裕で行方をくらました男。
『またね』
そう告げたキス魔は今、何処に身を潜めていることだろう。
一度目は騒動の中で二度目は偶然出会った、良く笑う悪戯っ子なお兄さん。
もし三度目があるのなら…
いくら悪い人でも、死体だったら嫌だなって思った。
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