青天の霹靂

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「う…っ、」 「ど、どないしはったん?」 「あ、えっと、雅さん?」 心が震えて本気で泣けたのは、いつぶりだったか…と言うか、過去に一度でもあっただろうか? 思い出すのは母の面影と、何故か一緒に遊んでくれていたのに豹変して、あたしを殺そうとした恐ろしい幽霊。 恐怖と裏切り。 それはどちらにも共通してたけど、今はそんな感情とは真逆の涙が溢れて止まらない。 二人の姿は一瞬で熱い波に押しやられ、記憶の隅へ消えて行った。 「うっ、うっ、だ、だって…あた、あたし…訳わかんない…気持ち悪い奴なんだよ…?…う、ひいっく、けど…けどさっ、…平助に似てるからって…皆、優しくしてくれてもさ、…ううっ、あたしだって…どうしていいか…うっ、……わかんないもんんーーっ!」 ただただ気丈に振る舞う事しか出来なくて。 不安や不満ばかりが募っていって。 なのにあの人達は皆、飄々としてるから。 与えられる何もかもが嘘臭く感じて、勝手に息苦しくなってたんだ。 自分が辛いからって、人を信じられない過去に縛られてるからって、好意で差し伸べてくれた手を素直に握り返せずに、ましてや傷付けていいハズがないのに。 涙が零れる度に、優しさが染みてゆくようだった。 「…雅はん、我慢してはったんやなぁ。…女子の身でお一人、お辛うどしたなぁ…」 「雅さん…あなたが何者であろうとも、今はあなたも仲間であり我々にとって大切な存在なのですよ。悩みや苦しみがあれば一人で抱え込まないで、その荷を少しずつ私達にも預けて下さいませんか?あなたがこの時代でより良く生きて行ける為の、お手伝いがしたいのです。」 「そうどすえ、何かあらはったら、いつでも言うておくれやす。」 いつの間にか二人が近付いていて山南さんはそっと頭を撫で、明里さんはギュッと抱き締めてくれている。 「う…今優しくされたらっ、されちゃったらっ……うわあぁぁーーんっ!」 慰めや励ましなんて白々しいだけだっていつも冷めた考えしか持ってなかったけど、それは違うんだって身を以て教えられた。 一人じゃないんだよって、言ってくれる。 側に居て支えてくれる。 そんな些細な事でも嬉しくて…勇気や希望が湧いてくるものなんだね。
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