稽古はツラいよ?

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男として行きて行くって言っても、やっぱ異性に対して全部を曝け出せるほど鈍くはなれない。 「いたたたた…ふぅ…」 腰の帯まで下ろしていた襦袢を着直し、安堵の息を吐く。 「暫く横になっとき。飯運んで来たるさかい。」 それにしてもゲンキンなもので、山崎さんが気持ち悪いくらい優しいのが、ちょっと嬉しかったりするあたしも…どーよ? 「…うん、お願いシマス…」 まあでも…身体が痛くて動けないし、ここは素直に甘えよう。 なるべく負担にならないように、ジワジワ布団へ沈んだ。 山崎さんが消えても、何も被らずセンベエ布団に仰向けで天井を見る。 「…診療所みたい。」 薬品よりも苦そうな漢方に近い匂いと、金具の取手が付いた小さな引き出しが沢山の箪笥。 さっきもそこから出したネバネバの液体を擦り傷に塗られ、打撲傷には別の臭いのを布に付けて、何ヶ所もベッチョリ貼られた。 テープなんてもんはないから、手足には大袈裟に包帯が巻いてある。 一念発起した初っ端がこれじゃ、先が思いやられるなぁ… あたしも程々に喧嘩は強い方だったのに。 やっぱ、一貫して何年も何十年もひとつの事をやり続けてる人とは、レベルが違い過ぎるんだ。 改めて痛感した。 平助はあたしと同じ体格だったらしいのに、この人達とタメ張る強さがあったのか…と。 〝女だから〟って、そんな言い訳したくない。 だってあたしは『平助』だもん。 男ばっかの血生臭い場所で、生きて行くと決めたんだから。 視界が揺らぎそうになるのを、グッと堪(コラ)える。 焦りは禁物だよね。 グダグダ考えてもどうしようもないし。 生きて行く為に、ちゃんと食べて身体作って沢山稽古する、ただそれだけだ。 山崎さんを待つはずがなかなか戻って来ないから、重くなる瞼と睡魔に負けて、ゆっくり静かに意識を手放していった。
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