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怒りに任せてズンズン歩き、辿り着くは平助が休む山崎の部屋。
しかし障子に手を掛けようとして、ピタリと動きが止まる。
『見張るんですよ。』
『手篭めにされないように。』
不本意にも脳裏に浮かぶのは、意地の悪い笑みで自分を見下す沖田の顔。
「…余計なお世話だっつーの。」
邪念を払いながらも、実は聴き耳立てて部屋の様子を伺っている辺りが、自信の無さを裏付ける行為のように思えてくる。
深呼吸を深く二度してから気弱な心に鞭を打ち、障子を勢い良く開けた。
「邪魔するぞ。」
するとすぐに部屋の中央で、スヤスヤ寝息を立て横たわる平助を見つけた。
「…平助?寝てんのか?」
極力抑え気味に声を掛けたのは、起こすのが忍びないと思ったから…ではなく。
謝罪が先延ばしになったと安堵している狡さ故も、無きにしも非ず、だ。
ホッと一息つき、掛け布団の上で眠る雅に自分の羽織りを掛けてやった。
隣りへ腰を下ろすなり、
「ククッ…また涎垂らしやがってまあ…」
だらしなく緩んだ口の端から、一筋流れた涎をヒョイと手で拭う。
深い眠りの原因が、先刻の厳しい稽古のせいだとは百も承知である。
伸びた手足に巻かれた包帯を見て心を痛めるも、顔にひとつも傷をこさえていないのは、ギリギリで『平助』が女であると意識していたという表れだ。
「…ちくしょー…やっぱ、可愛いんだよなぁ…」
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