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穴があったら入りたい…が敵前逃亡は武士の恥。
自分の事は棚に上げ、山崎に鋭い視線を送った。
だがどんなに虚勢を張ったところで負けは負けなのだと、直ぐに思い知る事となる。
「…はて、何の事でしょう?私は副長の度を超えた厳しい稽古のせいで、平助の身体が酷使されたと言っているのですが。」
山崎は澄まし顔でそう答え…
己の唇に人差し指を持って行き、スイッと妖しく滑らせた。
「っ!…最初からかよ、タチ悪りぃ…」
額に手を付き項垂れる土方を見て、
「…どうしたの?二人して…何か変だよ?」
雅は怪訝な顔をする。
しかしそれは完全無視で、
「…知らぬは本人ばかり也、これは貸しにしておきます。」
「てめえ…相も変わらずいい性格してやがんな。…覚えてろよ?」
眉間に大きな縦皺をこさえたまま、土方は立ち上がった。
「平助、悪かったな。…今後お前の稽古は他の奴らに任せる。俺は二度とやらねえ。」
「…え、あ…うん。」
出て行き間際告げられたのは雅にとって喜ばしき内容であったが、一方的に投げ捨てられたようで何処だか腑に落ちない。
「飯、食うやろ?」
いつの間にか部屋へ持ち込んでいた膳を布団の脇に置きながら、山崎が顔を覗き込む。
「んー……食べる、けど。」
「けど、何や。」
「いや、さ…土方さんだけど…さっきの…絶対怒ってたよね?」
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