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斉藤は堅苦しい喋りではあるが、落ち着いた口調で柔らかく諭す。
「うん…」
一度だけだが、見知らぬ男二人と真剣勝負をした経験を思い出し、雅は小さく頷いた。
すると、その姿が気落ちしているように見えたのか、
「心配すんな。稽古師範は常識有る人材を選んだからよ、かっかっか。」
永倉が大口開けて笑ってみせた。
「常識有る人材?」
「おう、お前の身が危うくなりそうな輩は師範から外してやったぜ。」
聞けば土方、山崎の両名は加減が効かないという理由で除外され、雅の秘密を知る残った幹部が交代で相手をするという。
「…そっかぁ…」
その申し出は酷く有難かったが、去り際の土方を思い出せば少しだけ申し訳無く感じた。
山崎に関しても同様で、変な話しだが仲間外れにしているような嫌な気分になり、チリリと胸が痛む。
「…わかった。よろしくお願いシマス。」
それでも、これ以上我儘を言い迷惑をかけたくないと思い、口を噤み了承するしかなかった。
「…はぁ…」
同じ頃、土方は自室にてキセルを吸いながら。
「…はぁ…」
山崎は身を忍ばせた天井裏で。
其々に深い溜息をついていた事は、誰も知る由も無い。
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