郷に入っては郷に従え

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こっちでの生活が落ち着いたら主人が不在のままのアパートに、住まわすつもりだったんだが… 「だってさ~、近くに誰かいないと眠れないんだもん。それにあの〝ばいく〟とか〝くるま〟の〝ぞく〟?…あの煩い音、まだ慣れなくて怖いんだよ~」 こんな調子で前途多難。 俺のゆったりとした独身生活は、まだ帰って来そうにない。 「ああ…週末は特にな、集会やってっからしょうがねえよ。」 「しょうがないって…意味わかんない。あんな煩い音出してさ~ビックリするし耳痛いし眠れないし…一緒に寝るのが嫌なら、蓮司がどうにかして来てよ。」 「出来るかバーカ。俺の知り合いばっかじゃねえっつってんだろ?」 トイレや洗顔の合間に、いつも似たような会話をすんのが習慣になっちまった。 平助が未来の生活に慣れるまで…なんて言ってっけど、独り暮らしに踏み切れないのはそれ以外にも、不安要素は山程あるからだ。 例えば…俺の知らないところで存外アッサリ雅と入れ違うハメになったり、新選組と自分の辿るハズだった運命を、平助が知ってしまう事。 その時どんな状況に陥るか心配で堪らないから、側にいてやるのがベストではある。 けどなぁ…いつ起こるか、もしかしたら起こりもしない可能性もあんのに、この先も四六時中ベッタリ見張ってんのにも無理あんだよなぁ。 「さぁて、腹も減ったし飯にしようよ。蓮司、朝飯のオカズ、出し巻き卵でいい?」 ヒゲまでキッチリ剃った平助が、俺のお下がりのTシャツとボクサーパンツ姿で、フライパンを片手ににっこりと笑う。 「……お、おう。好きにしろよ。」 平助は文明の利器とやらに興味深かった分、家電の使い方をマスターするのもスゲえ早かった。 昔の時代ではあり得ない未来の高級食材を使い調理するのも、楽しみのひとつになっちまったらしい。 まあそれは家事全般に言える事で、片腕が不便な今は俺からすると有難いとは思う… 思うけども。 毎晩毎朝コッソリ布団に潜り込み添い寝して、雅と同じ顔して髪も下ろしたままのぶかぶかTシャツ&パンツ姿を晒し、見えそうで見えない太腿ショットで、複雑な男心を刺激すんのは勘弁して欲しい…マジで。
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