奇跡は突然やって来る。

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どれくらい経ったのか… いつの間にか座ったまま眠っていたらしく、体を揺さ振られて目を覚ました。 「う…ん……朝?」 「やっと起きたか。」 「ぎゃっ!?」 目を開けると顔近くに新八さんの顔がドアップで、驚いたあたしは変な声をあげてしまった。 「ぎゃって何だよ、ぎゃって。傷付くなぁ…」 唇を尖らせた新八さんは立ち上がって頭を掻いた。 目が覚めたら元の世界…なんて、甘い考えだった訳で… 池田屋って家の前は、お揃いの青い羽織りの男達が集まっていて、眩しい朝日に照らされて意気揚々としている。 だけど… ほとんどの人が返り血浴びてるし、中には斬られた人もいる。 並べられた死人の多さを目の当たりにすると、まるで小さな戦争の後みたいだった。 あたし勉強苦手だったんだよね…歴史とか成績悪かったし… フと気付くと総司さんの手を握ったままで、本人はぐっすり爆睡中だ。 その寝顔はまだ幼い子供みたい。 「今から帰るってよ。」 「左之さん…」 着物を赤く染め左之さんが、笑いながら近付いて来た。 「帰るって…」 『ドコに?』 なんて言えなかった。 聞いたところで、あたしには行く場所もなければ頼る人もいないんだから。 「いつまで手ぇ繋いでんだよ。総司はそのまんま戸板で運ぶからな。」 言われて手を離すと、総司さんは大きな体で寝返りをうった。
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