郷に入っては郷に従え

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黒い…テカテカ? それは所謂…攻撃すると羽根を広げ決死の特攻を仕掛けて来る、人類最大の敵じゃないのか? スプレーかけてもエスパーかと思えるほどの瞬間移動、スリッパを振り下ろしてもシュー◯ッハもビックリ、最速コーナリングで嘲笑うアイツ。 一匹見つけたら五十匹。 生命力は半端無く、罠にかかった仲間の背を平気で渡り歩く恐ろしい侵略者だ。 「お前、そのゴキ…黒いヤツは…」 まさかと思い聞いてみると、 「ん?退治したよ?普通に箸で。」 サンダルを履いた平助が、悪意のない笑顔を向けた。 耳を疑い一瞬フリーズ。 「………箸?」 「うん、丁度使用済みの箸が近くにあったから、ブスって。良かったぁ、まだ腕は鈍ってないみたい。」 刺したのか!? 急に寒気がして、全身に鳥肌が立つ。 道具の利便性を考えて、本来の使用目的と全く違うのは良くある話しだが… よりにもよって何故、箸でゴキブリを!? 喉から胃にかけて、むうっと気持ちが悪くなり心拍数が上がる。 「…平助、その箸は?」 「箸?…ああ大丈夫、ちゃんと洗ったよ。蓮司のだったから悪いと思って、ぐえっ!?」 流石に堪忍袋の緒が切れ、ドアを開けようとした平助の首を発作的に腕で締め上げていた。 昔と現代の生活習慣の違い…とか、今回ばかりはそんな寛大な心を持ち合わせてやれる訳がねえ。 「おまっ、何つー事しでかしてくれてんだ!恩を仇で返すか、こんにゃろう!!」 「な、何!?何そんなに怒っ、ぐ、ぐるじぃーっ!」 「怒るわっボケッ!」 何も知らずにさっきも使ってたのは、用意されてた俺の箸。 空いた手で更にロックをかけて、本気でオトしてやりたくなった。
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