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ここに来てから初めて経験する長旅。
初日は予想に反し、遥かに…楽チンだった。
それは何故かと聞かれれば。
忙しない旅立ち後、
「さて、ほんならこっからひとっ走りこいつに乗ってこぅか。」
「へ?…馬?」
どこぞの納屋にこっそり用意されてた馬に跨り、
「何で、俺達だけ…」
「阿呆、先はまだ長いねんで。ズル出来るとこはズルしとかな、自分絶対帰りまでもたんやろ。乗りモン使うてええて局長と副長らから許可も出とる、安心せい。」
「…そうなの?」
「そうや。お前に合わせとったらいつ着くか知れんしな。…わかったら振り落とされんように、ちゃんとガッツリ掴まっとき。」
「うわわっ!?ちょっ、」
腑に落ちないながらも山崎さんの背にしがみ付き、馬の嘶きと共に二ケツで再出発したからだ。
陽も高くなりお腹がグルグル鳴り出せば、
「そろそろ飯時やな。ほんならこの辺で団子でも食うて腹ごしらえしよか。」
「うっ…わ、めっちゃうまそ…」
峠の茶屋とやらでピクニック気分の食事が出来たし、馬を山崎さんの知人に引き渡した頃合いで追い付いた近藤さん達と合流してからは、日が沈む前に泊まれる宿を探して、
「俺が見張っといたるさかい、さっさと入りや。」
「…うん、アリガト。」
一緒にお風呂へ入ろうとしつこく迫る武田さんを、近藤さん達が上手く誤魔化してくれたりして、汗や汚れを落とす事も出来た。
そうなると当然の如く、泊まる部屋も武田さん達とは別室の気遣いもあって。
「足、痛ないか?」
「うーん、今日はすっごい揺られて、しがみ付くのに必死だったからねぇ。足にはキて無いけど…お尻と腰が痛いかなぁ。」
「…武田はんが聴いとったら、俺らお仲間やて思わはるやろな…」
「?何の話し?」
「イヤ何でもあらへん、独り言や。…辛いんやったらちっと腰さすったろか?」
「んー?…いや、それは遠慮しとくよ、まだ大丈夫。」
「ほうか。まぁこの先身体に何ぞ違和感あったら早よ言いや。我慢したかてええ事あらへんのやさかい。」
「あー…うん、わかった。」
こんな調子で延々と山崎さんがべったり一緒で、出発前まで厳しい事を散々言ってた癖に、気持ちが悪い程至れり尽くせりだったりする。
要するにまるっきり手のかかるガキ扱い。
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