花一匁(ハナイチモンメ)

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縋るように、荷物を抱えた近くの旅人らしき男を見れば、即座に顔を逸らされ足早に消えてった。 ならばそこ行くお兄さん!ちょいと助けて下さいな!? 負けじと次のターゲットを捕捉するも… 露骨に迷惑そうな顔して、競歩の如き見事な足捌きであっと言う間に遥か彼方へトンズラされた。 「正直に言ってくれ!俺かこいつか!」 「迷う必要あらへんやんけ、もたもたすんなや。」 「う…うう…」 のし掛かるように迫る二人。 背骨は逆くの字に曲がり、ギシギシ悲鳴を上げている。 どうしてこんな事にーーーーっ! どっちを選んでもマズい感じだし、選ばないって選択自体この人達には通じないだろうし。 いつもの手で、逆ギレして誤魔化すか? 道幅の瀬戸際まで追い詰められそうになったあたしは…大きく息を吸い込んだ。 「どっち選ぶとかっ!いきなり何言っ、 『パカラッパカラッパカラッパカラッパカラッ』 て、ん……パカラ?って、何?暴れたがりん坊将軍?」 「そんな将軍いねえし。」 「そんなん、ただの傍迷惑なオッサンやん。」 叫び出した途端、あたし達が歩いて来た方向から激しく聞こえる蹄の音。 それがどんどん近付いてるのがわかって、皆してその方角へ首を捻る。 『パカラッパカラッパカラッパカラッパカラッパカラッパカラッパカラッパカラッ』 「チッ、危ねえな。」 「…一先ず避けよか。ホレ、こっち来(キ)ぃ。」 物凄い勢いで駆けて来るのは、茶毛の馬。 乗り手は前屈になってるせいか、馬の頭部に重なり全く見えなかった。 二人に誘導され道端に寄り、通り過ぎるのを黙って待つ。 すると、 『ヒヒイィィーーーーン!!』 けたたましい嘶きが間近で響き、無理矢理急停止したであろう砂利の音と巻き上がった砂埃で、目も耳も通常の感覚を失ってしまった。 「「ーー雅っ!」」 咄嗟に片腕を両側の二人に掴まれ、それが新八さんと山崎さんだって気付いて、引かれるまま身を預けようとしたけど… そう、そうなんだよ。 同時に左右引っ張られたら、どっちにも行けないのが定理。 こいつらマジで阿呆だ!! 「ゲホッ、ゴホッ!離せ馬鹿野、郎うおぉぉぉーーーーっ!??」 砂埃に咳き込みながら、掴まれた腕を離そうと両腕に力を込めた途端、何故か浮き上がったあたしの身体。
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