花一匁(ハナイチモンメ)

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「ぐええっ!?」 違う!何かに引っ張られたんだ! 襟元が首に食い込み、一瞬気を失いそうになって、 「ぶふっ!!」 硬いモノにモロ顔面激突。 「いったあぁーー!!」 余りの激痛に我に返るも…頬にビッタリ触れているのは人肌の温もりと、ふんわり香るいい匂い。 「雅っ!何処だ!?」 「ーーー何やお前っ!」 怒声が少し離れたとこから聞こえるって事は…この人……誰? あたしは知らない誰かに腰を抱かれ、腕の中へスッポリ収まっている模様。 しかも何かに跨ってるような姿勢で、お尻の下が不安定に揺れている。 ななな、何事ですかあぁぁーーーーっ!? 「雅ィィーーー!!」 脳内ぐるぐるでパニクり始めた時、漸く開きかけた視界の中に手を伸ばした山崎さんの姿が映る。 「山崎さ」 「…行くよ、掴まっといで。」 「へ?ーーひゃあ!?」 『ヒヒイィィーーーーン!!』 あたしが出した手と山崎さんの手は、互いに空を切り… 「うわっ!」 突然ジェットコースター並みに酷く傾いたものだから、驚いて発作的に目の前の身体にしがみ付く。 耳が痛い程の嘶きが響いた後、あたしを乗せた馬は背中を向けてる方角へ、一心不乱に走り出した。 「「ーーーっ!ーーーー!!」」 遠去かる、二人の怒鳴り声。 「ちょ、ヤダ待って!止まって!止まってよっ!!」 拉致られたのは明白で、見上げた拍子に思わず犯人の胸を握り拳でドカドカ殴ると、 「ぐぎあっ!?」 腰に回された一本の腕がギリギリ締まって、息が詰まる。 そして、 「暴れたら…捻り潰すよ?」 低い声と共に、喉仏がゆっくりと上下した。
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