花一匁・其の二

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あ、デジャヴ。 確か同じ台詞を言わせた奴がいたな… この時代には、どうにも自信過剰に自意識過剰な奴が多いらしい。 「なるしぃって何?…それって多分、悪口だよね?」 「わかってんなら離しやがれ!バーカ、アーホ、カース!」 引き剥がそうとしてブンブン振る腕と一緒に男の腕も付いて来て、男女の握力差が恨めしく腹が立つ。 そんなあたしを見て、 「じゃあ特別に…僕を思い出せたら離してあげようかな。」 男は意地悪な顔で愉快そうに笑っていた。 「またそれか…つくづくしつこい…」 「そう?…心ならずも君は僕の恩人なんだよ。僕はずっと忘れられないでいるのに…君ときたらすっかり忘れてしまっているし。これで腹が立たない方がおかしいでしょ。」 命の恩人?…あたしが? 首を捻り記憶を遡ってみたものの…ここへ来てから助けられた記憶はあっても、助けた記憶は一個もない。 「…まっさかぁ~!…って、心ならずもってのは余計だろっ失敬な!それに感謝の気持ちがあるなら、こういうやり方のがおかしいと思うけど!?腹立てるとか絶対間違ってるよね!?」 「覚えてない君が悪い。」 「横暴だなオイ!」 「間接的とは言えあの時…君が現れたから、活路を見出して何とか逃げ延びる事が出来たんだ。僕の同志達は殆ど殺されてしまったにも関わらずね。暫く故郷に身を潜めていたせいもあって、お礼参りがこんなに遅くなってしまった訳だけど。」 「…お礼参りと感謝ってのは全くの別物だって、あんたの周りの奴らは誰も教えてくれなかったのかな?」
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