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早いものであっと言う間に夏が過ぎ、季節は秋を迎えた。
「へぇ…秋雨前線て言うんだ。」
150年前からタイムスリップして来た自称、雅の双子の兄『藤堂平助』はここ暫くずっと雅の住んでいたアパートに引き篭もっている。
「少しは涼しくなったけど、こんな雨ばっかりだとやんなるよね~」
そしてひたすら、お気に入りのテレビを噛り付くように見続ける日々。
「お前…玄関に鍵かけろっていつも言ってんだろ。それとテレビ、近付き過ぎんなってあれ程」
「ハイハイ、わかってますよーだ。一々口煩いんだから、蓮司は。」
「ああ?それが昼飯持って来てやったモンに言う台詞か?」
狭い部屋の中央にある小さなテーブルにコンビニ袋を雑に置くと、背を向けたままだった平助がもぞもぞと寄って来た。
「プリンは?」
「…買って来た。てめえ、人の話しを」
「バイクは?」
「…チッ…乗ってねえよ。今日も電車と徒歩だっつーの。」
「なら良し。ほら、ボサッとしてないで座んなよ。…あ、でもその前にお茶入れて、お茶。」
「…人をパシらせといて、何様だてめえは。」
とか言いながら勝手知ったる台所へ移動するあたり、俺も手慣れたもんで…
「今日は何~?」
「エビドリアとカツサンド、ゴボウ天うどんにオニギリを幾つか。んでついでにパンとかバナナも買って来たから、それはまた明日にでも食え。」
「やったあ、エビドリアだ!」
茶筒を開け茶葉を急須へ入れつつ、ガサゴソとコンビニ袋を漁りだした様子を窺う。
「んで、こっちの袋はデザートデザート~…あ、コーヒーゼリーもある~」
数ヶ月の間に現代被れしてしまった平助は、さっきとは打って変わり嬉しそうに表情を緩ませた。
ポットから急須に湯を入れながら、ホッと息を零す。
好物を買って来て機嫌をとる俺も大概、甘い奴だとは自覚しているつもりだ。
だが未知の世界へやって来た平助に対し、最初の頃から変わらず過保護で有り続けてしまうのには、俺なりの理由がある。
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