雨上がりの午後に

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惚れた女の双子の兄…ってのは勿論だが、未来に来て直ぐコイツの辿る末路を…死に様を教えてしまった責任を感じているのは事実だ。 同情、なんてガラじゃねえ。 けど…知ってしまったからには、微力ながらも力になりてえと思った。 タイムスリップなんて夢物語みてえなとんでもねえ話し、こんな事になる前なら鼻で笑ってただろうにな… コイツはこんな女顔でヒョロくても、一応は名の知れた幕末の志士。 日常茶飯事に奪ったの奪られたのと命を軽んじる時代でもあったし、本人も別にいつ死んでも悔いはなかったってのは嘘ハッタリじゃねえとは思う。 だがそれは、平助と入れ替わりで殺戮の世界へ飛ばされた雅が、常に危険と隣り合わせにいるという事でもある。 どんなに命辛々日々を生き抜いたとしても、もし新選組に保護され留まっていたなら…歴史に残る『油小路の変』とやらで伊藤甲子太郎って奴に巻き込まれ、死んでしまう可能性は極めて高い。 『伊藤さんは凄く聡明な人で…俺の憧れでもあったんだ。だから多分あの時代の俺は、力になって貰えたらっていう単純な理由で誘ったんだと思う。でもまさか…近藤さんを暗殺しようとするなんて…』 平助はかなりショックを受けていたが、今更事実は変えられない。 今大事なのは、どうすれば雅を現代へ返せるかという事で、問題は山積みだ。 刻渡りなんぞという不可思議な力。 幕末に戻れば、平助が確実に死ぬ。 一番望ましいのはわざわざ入れ替わらなくても、雅だけが無事に現代へ戻れれば万事解決なんだろうが…
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