雨上がりの午後に

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『俺だけ逃げるなんて、ズルいよね?』 仲間を顧みず、便利な時代で一人だけ楽して生きていくのは申し訳ないと言う。 自分が死んだ後にも、新選組隊士達が其々の苦境の中で戦い没している歴史を知ってしまえば、罪悪感が芽生えても仕方の無い事だ。 『迷惑ばっかかけてるしカッコ悪い死に方だけどさ、もしかしたら俺だって未来の礎の一つなのかも知れない。命を惜しんでこのままここにいたら、歴史の歯車が狂って誰かの運命が大きく変わっちゃうかも…って考えるとね、怖いんだよ。俺が生き永らえて助かる命が沢山あるって確証があるなら未だしも、もしも…長生きする筈の人らを巻き込んで死なせちゃったりとかしたら逆に、生まれて来る筈だった命を沢山殺してしまう事になるでしょ?…そんなの、絶対嫌だし…』 それは永倉新八や斉藤一、島田魁など激戦をかい潜り生き延びた、かつての近しい仲間達の子々孫々を指しているのは言わずもがな、だ。 仲間を大切に思う平助の気持ちは、痛い程伝わって来る。 俺も家族に恵まれなかった分、掛け替えのない繋がりを守って行きたいと思うから。 …でもやっぱり、納得は出来ねえ。 平助は俺にとってももう身内みてえなモンで、こんなにも親しくなっちまった『友人』が過去に戻りゃあ無惨に殺されちまうのを、黙って見過ごせる訳ゃあねえだろうがよ… 人の気も知らねえで、口の周りを汚しながら美味そうに飯を食う姿を見て、ふと頬が緩む。 「…付いてんぞ。」 「ん?何が?」 「ドリアの白いの。」 「どっち?こっち?」 「どっちもこっちもだよ。あー袖で拭くんじゃねえ、ガキかてめえは。」
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