雨上がりの午後に

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しかしそれが、安易な考えだったと気付かされたのは数日経ってから。 翌る日も翌る日も…そのまた翌る日も平助からの連絡はない。 こんな事は初めてで、不安ばかりが胸を過る。 気にし過ぎて神経すり減らす位なら意固地にならなきゃいいもんを、とわかってはいてもそこは性分ってヤツだ。 「そ、総長…やり過ぎると氷が溶け過ぎて薄く…」 「…あ?誰の頭が薄いって?」 「違うっスよ、ハゲの話しじゃなくてカクテルが」 「……げ、やべ。」 バイク事故をきっかけに転職したのは、族時代の後輩に誘われたホストバー。 この仕事を引き受けたのは昼間なるべく長い時間、平助の傍にいてやりたいと俺自身が望んだからだが… 泡だらけになったシェイカーの中身を捨て、苦笑いを浮かべる。 「…悪りぃ、すぐ作り直すわ。」 「珍しいっスね、総長が失敗続きとか…昨日はグラス三つも割るし、一昨日はスピックで手ぇぶっ刺すし。」 「……」 「もしかして、調子悪かったりします?」 「いや、そういう訳じゃ…」 「んじゃあ、悩み事とか?」 「…別に、何でもねえよ。」 「まさか、女の事だったりぃ?俺で良ければ相談に乗りますよ!」 「ちげえっつってんだろ、バーカ。余計な気ィ回してねえで、てめえはさっさとテーブル片して来い。」 「へーい、了解っス。」 納得してねえ顔しながら、ホストネーム〝リョウ〟と名乗る後輩はカウンターからのらりくらりと出て行く。 なぁにが〝リョウ〟だよ、本名は〝ヤスオ〟のクセしやがって。 因みに俺は〝トウマ〟とか勝手に名付けられた。 オカマ店長曰く、トウマかハルマか悩んだ末にどっちかと言えば、野性味のあるトウマに似てるとかどうとか… 気に入りの俳優だかアイドルだか、俺にはよくわかんねえしどうでもいいんだが。 「…ふぅ、やってらんねぇ…」 畜生、誰のせいでこんな苦手職種で働いてると思ってんだ、馬鹿平助。 最近の俺はダセェ失敗ばかりで、アレ以来どうにも上手く行かねえ。 「やだ、トウマ君聞こえてるわよぅ~」 「嫌な事でもあったのぅ?お姉さんが慰めたげるぅ~」
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