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客を怒らせるのは御法度。
だが別に身体を売って生計を立ててる訳でもねえ。
だから…少しだけ首を捻り、唇への直の接触をギリギリ拒んだ。
ベチャリとした気持ち悪い感触が顎のラインに二回。
それと、至近距離に来たせいで吐気がする程のキツい香水が、鼻の奥を刺激する。
「やったぁ!」
「これでもう、トウマ君は私達のものだからね~!」
キャーキャーと嬉しそうにはしゃぐ姿も疎ましく、胸糞悪さで苛々が募った。
仕事は探しゃあ、いくらでもある。
こんなアバズレ共を相手する位なら、夜間のコンビニや警備員のがよっぽどマシだ。
「…うぜぇ…」
「え?」
「なあに?」
血管ブチキレる寸前の低音が、ついに口を突いて出た。
我慢?忍耐?…そんなモン、時と場合によりけりだろ。
誰のせいだ?誰のせいでこんな事になってんだ…って、ああそうだよ、俺がここで働くって決めたんだよ。決して平助のせいじゃねえ、てめえが招いた事態だクソが。
手元にあった台拭き用の布巾で、唇が付いた箇所を強めに拭う。
「調子くれてんじゃねえ、このオカメチ」
『ーーーバンッ!』
仮にも客である女達に向け、悪態吐きかけたその時…
俺の言葉を遮るように、何かを激しく叩く音がした。
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