雨上がりの午後に

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その音が結構な具合に響き渡り、店内はシンと静まり返った。 ジャズらしいBGMが淡々と流れる中、音の元凶に注目が集まる。 同じく俺も首だけを横に向け、カウンターの隅を見た。 するとそこには… 左右の髪を前へ寄せ、不自然に顔を隠した女が立ち上がっていた。 ーーーが。 見覚えのある黒シャツとGパンの軽装着に、驚きで目を見開く。 「お、お前っ、平助か!?何でこんなトコにいるんだ!?」 大声にビクリと跳ねた肩。 次に間を置いて、ゆっくりと掻き上げられた邪魔な髪。 「…何で?」 その瞳は酷く揺らぎ、噛み締めた下唇の様からは不快さが直ぐに見て取れた。 「それを聞きたいのはこっちの方だよ。…蓮司は何でこんな如何わしい所に勤めてんの?」 「はあ?」 ここは一応そういった類いの店じゃねえけど、幾ら現代慣れして来たっつっても江戸時代を生きてた人間に、あーだこーだと説明するにはかなり面倒で難しいんじゃねえかと思う。 しかも客にキスされるのを見られてたんなら、誤解されても仕方無えし。 「はぁー…あんなぁ、何か勘違いしてるみてえだけど、ここは如何わしい店じゃねぇっつーの。久々にツラ見せたと思ったら、ガキみてぇに騒いで人様に余計な迷惑かけてんじゃねえよ。」 デカい溜息を吐きながら整えてた前髪を崩し、カウンター内からフロアに出る。 「ねぇ誰よ~その娘ぉ~」 「もしかしてぇ~トウマ君の今カノだったりぃ~?」 「え~ヤダァ~怖ぁ~い、彼氏の職場に乗り込んで来るとかさぁ~あり得なくなぁ~い?」
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