嫌よ嫌よも…

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庭にある竹の物干し竿に隙間無く並ぶ褌の群を、二人とも暫く無言で見つめ… 「風にはためく様がまた涼しげでいいじゃねぇか。」 「…いや、褌撫でて通った風を全身に浴びて、朗らかな気分にはなれないからね?」 「…そぅだな…」 その場から離れようとした時、ふと気付いた。 「…あれ?俺のが…ない…」 棒の端にコッソリ掛けていた、例の三角の布がない事に。 「おめえのならあそこにあんだろ。」 キョトンとして顎をシャクられた先にあるのは確かに、皆の褌と間違えないように『平助』って名前を刺繍しておいたあたしのモノだけれども… 「アレはカモフラ的なやつでっ…」 違う!違うんだよっ!失くなってんのは、山崎さんが作ったくれたおパンの方だってば!! 最近ちょっと乾き難い季節になって来たから、夜にコッソリ部屋干しはどうかなーって思って周りには『手製の手拭い』だと言い張り、今では堂々とぶら下げられるようにまでなってたのに… 「誰だよ勝手に取ってった変態はっ!?」 「…そりゃ言い過ぎだろ、たかが手拭いの一枚や二枚で。風に飛ばされたのかも知んねぇしよ。」 縁側から裸足で飛び降り、物干し竿に急いで近付き辺りを見回す。 「手拭いだよ!手拭いだけどっ!アレは山崎さんから貰った大事なヤツでっ!」 「……山崎?」
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