嫌よ嫌よも…

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ふと顔を上げて振り向けば、斉藤さんの横に並んでいたのは伊東甲子太郎と一緒に江戸からやって来た、弟の三木三郎って人だった。 少し膨よかな頬に腹回り。 ここの人達は贅沢してる訳じゃないし運動量も多くて筋肉ムキムキが多いから、武士のイメージには程遠いぽっちゃり体型についつい目が行ってしまう。 入隊時…自己紹介での本人曰く『私は何方かと言えば武闘派では無く頭脳派なので』なんだとか。 「何が原因か知りませんが、傍目から見るとまるで弱い者虐めのようですよ。もうその辺になさっては?」 この男は言葉通りに運動が苦手な分、口だけは達者でやたら威圧的だ。 というより態度がね、あからさまにあたしらを軽蔑してるっぽい。 …一応は助け船のつもり?でもさぁ、他に言いようはないもんかね? 本当の事でも言っていい事と悪い事があるだろうに。 それがわからないのは只の無神経。 結果的に救った相手をも傷付けてるのに、自分は正しいと勘違いしてるぽっちゃり君は兄貴同様、やっぱり苦手な人種でしかなかった。 でも悔しいのに言い返せないのは…まだまだ自分が助けられてばかりの弱者だと、あたし自身が認めてしまっているからだ。 いっ時しんと静まり返って、何とも気まずい空気に居たたまれなさを感じ身を竦めると、 「…虐めてねぇっつってんだろ。てめえこそ何様だ?腕っ節は平助より弱えくせしやがって、見下してんじゃねえぞ。一丁前の口利く前に、その無駄で見苦しい肉もっと揺らして減らせゴラ。」 土方さんは三木三郎に睨みを利かせ、あたしの頭を軽くクシャリと撫ぜた。 「そういうつもりで言った訳では…話しをすり替えないで貰えますか?」 ピクリ、と。 三木三郎の口が大きく引き攣る。 「同じことですやん。俺らは戯れとるだけやのにわざわざ弱い者虐めとか口挟んで邪魔しはって…間違いはキチンと正さなあかん、今直ぐ謝らはるんが筋ちゃいます?」 柔和に微笑みいつもより少しだけ丁寧に話している筈の山崎さんも、その実全身から冷気を発していてあたしまで寒気がして来た。 「…新参者のヘタレの癖に調子に乗んな。おめえこそ平助に詫びろ肉団子。」 そしてこの中で一番温厚だと思っていた佐之さんに至っては、指の関節をゴキゴキ鳴らして早々と戦闘態勢に入っている。
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